教団X(きょうだんえっくす)
著者名: 中村文則(なかむら ふみのり)
出版社: 集英社
発売日: 2014/12(2017/6)
ジャンル:サスペンス
「教団X」は中村文則さん著作、自身の前から消息を絶った女性の行方を一人の男が追う過程で、奇妙な宗教団体とそれに対立する団体が関連する事件を描いたサスペンス小説です。
著者の中村文則さんは愛知県出身の作家であり、他の著書に、2005年に第133回芥川賞を受賞した「土の中の子供」、2010年に第4回大江賞を受賞した「掏摸<スリ>」といった作品があります。
2018年3月に公開された岩田剛典さんや斎藤工さん主演の映画「去年の冬、きみと別れ」も中村文則さんの小説が原作です。
また、ノワール小説、犯罪小説、ハードボイルド小説系統の分野に貢献した作家に贈られるアメリカの文学賞「デイビッド・グーディス賞」を2014年に日本人として初受賞しています。
あらすじ
ヴァルナよ。私の主な罪はなんだったのですか? 『リグ・ヴェーダ』
バーにいる楢崎(ならざき)と小林の二人の男、「自分の前から失踪した女性、立花涼子の行方を追って欲しい」という楢崎からの依頼に対して、探偵見習いである小林からの結果報告がありました。
小林は、自殺をほのめかしていたという彼女がまだ生きていること、とある宗教施設で姿を確認したことを報告し、そして、楢崎の人生のために深追いをしないほうがいいという助言を与えます。
しかし、楢崎は
「俺のこれまでの人生? そんなものに何の価値がある?」
と言葉を発し、そして、その宗教施設に単独で乗り込もうとします。
その宗教施設は一見したところでは普通の屋敷のような場所でした。
楢崎は小林の調査報告書にあったその宗教施設の教祖、松尾正太郎(まつお しょうたろう)を訪ねます。
屋敷では、吉田という中年の男性と峰野(みねの)という美しい若い女性が楢崎にいろいろと説明してくれました。その団体は宗教のようなものではないこと、教祖の松尾は現在入院中であることなどです。
そして本題である失踪した一人の女性のことを楢崎が尋ねると、その女性がすでにその宗教施設にはいないこと、松尾に対して投資詐欺を働いた別の団体であり、公安に目をつけられている、「X(エックス)」という団体にその女性が所属していることを告げられます。
そして、楢崎はせっかく来たのだからという理由で、その宗教施設で開催された会の様子を記録したDVDでも観ていかないかと誘われます。
二つの謎の団体と、それに関連する人々、数々の出来事があらゆる思想や制度、社会を巻き込んでいくことになります_
感想
インドの宗教論や釈迦、ユダの福音書といった宗教的な文献、脳科学や人の意識、心を扱った文献、宇宙論や量子力学を扱った文献、靖国問題や日本軍を扱った文献、そしてテロや国際貢献を扱った文献と、重厚で多様な参考文献を用いた壮大な物語を描いた小説です。
それなりに長編の作品だとは思いますが、それでも作者はまだ書き足りてないのかもしれないと思うほど扱っている題材は多岐に渡っています。
宗教団体の存在は、思想を作中で表現するための役が第一にあると思います。
第二には、国家や社会という大きな(マクロな)存在が果たす役割・意義を少しでも客観的に捉えられるように、個人というミクロとしてだけではなく、少しでも大きな組織が必要だったのではないかなという感想です。
ただ、教団Xが性の解放を謳う団体だった意味はいまいちすっきりとしませんでした。
後半に出てくる考え方や意見については共感するものも多かったために楽しく読めました。
ただ、散在する言いたいことのために適当なサスペンス要素を用意したという感じがあり、ストーリー的には少し残念な思いもあります。
なぜなら、僕は弱かったから。
親の争いを真正面から受け止めることができず、
音楽や小説に助けられるほど弱かったから。
子供はみんな弱い。
その弱い時期に、自分の弱さを再認識させられる。
ああいう人間の怒鳴る声は、
内面の奥を常に不安にさせる。
毎日毎日それに曝(さら)されると、
ちょっとしたことでもビクつくようになってしまう。
条件反射みたいに、
人が怒鳴ると不安で仕方なくなった。
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