ロストパラダイス・イン・トーキョー
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
監督:白石和彌(しらいし かずや)
脚本:高橋泉(たかはし いずみ)、白石和彌
出演:小林且弥、内田慈(うちだ ちか)、ウダタカキ
公開日:2010/9
ジャンル:ヒューマン
「ロストパラダイス・イン・トーキョー」は、知的障害を持つ兄、その兄の生活を一人で支えようとする弟、そして兄のために風俗嬢として派遣された地下アイドルの三人が、閉塞的な社会でも生きようとする様子を描いたヒューマンサスペンス作品です。
「凶悪」、「日本で一番悪い奴ら」、「彼女がその名を知らない鳥たち」、「孤狼の血」といった多くの作品の監督を務める白石和彌さんの初監督作品です。
本作品で共同脚本を務めている高橋泉さんは、「凶悪」でも白石監督とタッグを組んで共同脚本を担当しています。また、他にも、映画「ソラニン」といった作品の脚本も務めています。
兄弟役の主演の二人、小林且弥さんとウダタカキさんも「凶悪」に出演されています。
あらすじ
アキバの会場でライブをする一人のアイドル、ドキュメンタリーのインタビューを受ける彼女は、食べては嘔吐を繰り返し、食事は舌で楽しんだ後に吐く、という話をしています。場面変わって葬儀場、どしゃぶりの雨にもかかわらず外で亀と戯れている一人の男と、その男を怪訝に眺める一人の男、二人は兄弟であり、亡くなった父親に代わり弟が精神が不安定な兄の世話を一身に背負うことになります。
弟である“みきお”は、マンションを販売するブラック会社の入社4年目の社員であり、上司に詰められながら営業活動に勤しみます。同僚には知的障害を持つ兄の存在は隠しています。
そして、兄である“さねお”の性欲処理のためにデリヘル嬢をみきおは呼びます。兄弟の住むアパートに派遣されてきたのが、冒頭でインタビューを受けていた地下アイドルでした。彼女は自分のことを“ふぁら”と呼ぶように言います。
ふぁらは、もともと定住先を持っていないこともあり、二人の兄弟が気になったのか、三人は共同生活のような形を始めます。
ふぁらの協力もあって、一人で兄の世話をしなければならない、兄を束縛することが正しいことであると考えていたみきおにも変化が生じます。ふぁらはさねおが自由に過ごすための島を購入しないかとみきおに言います。
しかし、ふぁらがデリヘル嬢であることがドキュメンタリー製作者にばれて、更に兄弟が抱えていた過去のことが原因で三人の生活が揺らいでいくことになります。
感想
現代の東京を舞台にした「青い鳥」のような話、知的障害を持つ者、若くしてその家族を支えなければならない者、定住先を持たずに地下アイドルと風俗で金を貯める者、三人の不器用な人間の生活は観ていて息苦しくなってきます。
知的障害を患っている者は社会から隠すのが幸せなのかどうか、結局、アパートに閉じ込めていくことも、誰もいない島にいることも社会から隔離するという意味では同義であり、閉塞的な社会の中で「幸せ」とは何なのかを考えさせる上でいい展開になっていると思いました。
亀やスニーカーのような細かいアイテムやアパートの近くの雑草が生い茂る空き地で三人で踊るシーン、決して映える絵になるわけがないのですが、それらに魅せられます。
白馬の王子様がいたり、マニックピクシードリームガールのようなヒロインがいるわけでもなく、観ていて痛々しくなる場面を経験しながら、それでも生きていこうとする不器用な人間を演じきっている主演の三人は素敵でした。
特に、みきおが兄のさねおのことを本心でどう思っているのか、ふぁらに吐露する部分が好きです。
そのためなのか、最終盤のさねおの境遇については、少しだけ「えっ!?」と感じたシーンがありました。
爽快感はあったかもしれないですが、それまでのみきおの苦悩が薄まってしまっている気がしないでもしないです(まあ、苦悩から解放されていることが大切なのでしょうが)。本当にそれで何とかやっていけているのか、私は釈然としませんでした。
結局さぁ、兄ちゃんにとって何が幸せなのかわからないんだよ
兄ちゃんにとって、幸せとかあんのかなぁ って
そう考えるとさ 中がぐしゃぐしゃになるんだよ
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