小説 ~ 男ともだち ~



男ともだち(おとこともだち)
著者名: 千早茜(ちはや あかね)
出版社: 文藝春秋(文春文庫)
発売日: 2014/05(2017/03)
ジャンル:ヒューマン、恋愛




「男ともだち」は千早茜さん著作、同棲する恋人と医者の不倫相手がいる29歳の女と、大学時代から友達の感覚で接してきた男との再会をきっかけに訪れる転機を扱った小説です。

著者の千早茜さんは北海道出身、学生時代より京都に在沖している作家であり、2008年に「魚」で第21回小説すばる新人賞を受賞されています(※後に「魚神」と改題)。

本作品は2014年の第151回直木賞候補作品です。


あらすじ


一般の知名度は低いながらも過去にヨーロッパで賞をとった経験も持つイラストレーターの神名葵(かんな あおい)、京都を拠点として、月に十以上の細かい雑誌の仕事をこなし、知名度こそ広まってきているが、精神的にも作家としても満足しているとはいえない状態です。

同棲して5年になる彰人(あきひと)、そして真司(しんじ)という浮気相手がいます。
彰人はちょうど良い距離感にいるようで、どこか物足りなく感じることもあり、また、強引な振る舞いを見せる真司を魅力的だと感じる一方で、彼の身勝手な挙動に辟易することがあります。

仕事に関してもどこか納得がいかず、周りの男の存在もどこか味気ない、そんな中で知らない番号からの着信、知らないアドレスからのメールの通知、その中身を確認すると、大学時代の二つ歳上の先輩であるハセオからの久しぶりに会わないかという連絡でした。

大学時代、神名はよくハセオの部屋に入り浸っていました。互いの存在が景色の一部に溶け込む程に一緒にいました。
ただ、ハセオはいつも軽口をたたき、女遊びも激しいような男でしたが、決して神名には手を出しませんでした。

男ともだち_

恋人同士でもなかったが、神名にとって唯一、深く安らげる場所であった存在、そんな彼との再会が神名の生活の変化に大きな影響を与えていきます。


感想


この小説は、主人公とハセオのやり取りを中心に、各登場人物の行動やそれぞれの会話劇で印象に残ったシーンが多く、読んでいて楽しい小説でした。


自分の絵が入った本を出版するという夢を叶え、それを仕事にしている。
同棲する理解者もいて、刺激を埋めてくれる不倫相手もいる。

それでも満たされない気持ちがどこかにあり、ないものを求める主人公、見方によっては傲慢で共感しずらい存在にも思えますが、何かを手に入れても飽きることなく次の何かを求め続けるのが人間であるという観点で読むと、主人公の考え方や感情が丁寧に描かれている分、わかりやすくていいと思います。

どこか物足りなさを感じてしまう彰人のキャラクターも好きです。手紙の内容等も含めて、作中では彰人にもっとも共感できるかなと思います。

真司もプライドの高いステレオのタイプのキャラクターである種のかませ犬的な立場で目立っています。

そして、もう一人の主人公とも言うべき、ハセオ、皮肉屋で女たらしの一面があるが、憎めない性格に、楽しい会話に、頼りになる行動力、そして包容力もあるという魅力的なキャラクターです。

ただ、結局のところ最後に抱いた印象はハセオに対する違和感でした。

この作品がミステリやサスペンスの類であれば、ハセオは主人公が困ったときに手を差し伸べてくれる、格好が良くて魅力的な登場人物であったと思います。
しかし、この作品におけるハセオのその魅力は、あまりにも主人公にとって都合が良すぎるため、作品にあっていないのではという気持ちが拭えませんでした。

一つ一つのシーンを見れば決してそんなことは感じないのですが、全体を通して考えると、ハセオはハードボイルド小説や少女マンガといった別作品から派遣されてきた主人公が困ってるときに助けてくれる助っ人キャラで、主人公とハセオの情事がなかったのは単にハセオというキャラクターにふさわしくないためにNGだった、そう言われても納得してしまうくらいの異質感を私は感じました。

この小説のテーマに対して、ハセオは少し不自然に魅力的過ぎたのではないのかと思います。
あえてハセオを掘り下げることをしなかったのでしょうが、それゆえにハセオがどこかファンタジー的な存在であると私は感じてしまい、その点が残念でした。

主人公とハセオのやり取りは本当に好きです。千早茜さんの他の作品も読んでみたくなります。

あと、サブストーリーとしてあった、美穂とあんちゃんを掘り下げた話をスピンオフとして見たいなという感想もあります。


そうだろ。ちゃんと認めろ。
認められないから泣いたりしてるんだよ。
無い情に逃げるなよ




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