ほかならぬ人へ(ほかならぬひとへ)
著者名: 白石一文(しらいし かずふみ)
出版社: 祥伝社
発売日: 2013/01/08
ジャンル:恋愛
「ほかならぬ人へ」は白石一文さん著者の恋愛小説です。
「ほかならぬ人へ」と「かけがえのない人へ」の2作が収録されています。
著者の白石一文さんは福岡県出身の作家です。父親も同じ作家であり、直木賞家である白石一郎さんです。
本作は第142回直木賞受賞作品です。
あらすじ
財閥のエリート一家に生まれた宇津木明生(うつぎ あきお)、彼には幼少期から婚約者と、優秀な二人の兄がいました。彼は、その兄たちと自身と比較することで「俺はきっと生まれそこなったんだ」と考えていたり、特殊な家柄出身特有の劣等感といったものを抱えて生きていました。
しかし、彼は25歳のときに、生まれて初めて自分の居場所を見つけたと感じる人、柴本なずな(しばもと なずな)と出会います。
出会ったときから親密な二人、明生は周囲のことなどお構いなしに知り合ってから一月半で、なずなに結婚を申し込み、なずなもそれを承諾してくれました。
明生にとって大切な存在であるなずな、しかし、結婚からわずか二年足らずで明生は裏切られることになります__
感想
恋愛小説といっても、「かけがえのない人へ」は主人公の女性が婚約を控えているのにも関わらず別の男との逢瀬を重ねている話、「ほかならぬ人へ」は結婚して2年経つ主人公の男性が浮気されている話です。
2作とも不貞(「かけがえのない人へ」は結婚前だから不貞ではない?)が取り上げられていますが、「結婚は間違いじゃなかったはずだ」や、「本当にこの相手と結婚してもよいのか」、といった視点から"ベストの相手(とその証拠)を見つけること”を主人公が求めているように思えます。
作中でとある人物が
『人間の人生は、死ぬ前最後の一日でもいいから、そういうベストを
見つけられたら成功なんだよ。言ってみれば宝探しとおんなじなんだ』
と述べている一方で、ほかならぬ人への主人公である明生は、次の言葉を発しています。
『渚には靖男兄貴が必要な人だけど、靖男兄貴には麻里さんが必要なんだ。 でも、そういうときは両方とも間違っているんだよ。 ほんとは二人ともベストの相手がほかにいるんだ。 その人と出会ったときは、はっきりとした証拠が必ず見つかるんだよ』
この言葉が正しいとすれば、「かけがえのない人へ」のかけがえのないと思われている人は、明生論によれば、ベストな相手かどうかが疑わしくなりそうなのがおもしろい部分でもあります。
そしてまた、「ほかならぬ人へ」も同様に、結局、宝物を探し続けているように思えた作品です。なぜなら、はっきりとした証拠と思われる彼女の匂いを、明生は消えてしまうに違いないと言っているからです。
『やがてこの部屋にしみついた彼女の匂いも少しずつ薄れ、いずれは完全に消えてしまうに違いない。』
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