パラレルワールド・ラブストーリー
著者名: 東野圭吾(ひがしの けいご)
出版社: 中央公論社(講談社文庫)
発売日: 1995/02(1998/03)
ジャンル:SF、恋愛、サスペンス
「パラレルワールド・ラブストーリー」は、恋人と同棲しながらも親友の失踪が気になっている世界と親友とその恋人が付き合っている世界、二つの平行世界を舞台に男が奔走するSF作品です。
著者の東野圭吾さんは大阪府出身の作家であり、 「容疑者Xの献身」で第134回直木賞、「 放課後」で第31回江戸川乱歩賞といった数多くの受賞暦があります。
本作品は「宇宙兄弟」や「聖の青春」で監督を務めた森義隆監督、出演者に玉森裕太さん、吉岡里帆さん、染谷将太さんを迎えて2019年に映画が公開される予定です。
あらすじ
大学院生の敦賀崇史は大学の資料室へ通うため、毎朝決まった時刻の山手線の電車に乗車していました。何度か乗車しているうちに敦賀はある女性のことが気になりだします。
毎週火曜日、並走する京浜東北線で同じ大学生くらいの女性を見かけ、そして、彼女もまた敦賀を見てるように感じ、敦賀は彼女に恋をすることになります。
しかし、電車で見かける関係のまま敦賀は大学院を卒業し、就職しました。
就職先はバイテック株式会社という総合コンピューターメーカー、そこの研究員として「脳」に関する研究を進めていくこととなります。
同じ職場には、中学時代からの付き合いの三輪智彦という親友がいました。
彼は足に障害をもっており、人付き合いが得意なタイプではありませんでしたが、その深い知性や鋭い感受性は敦賀に刺激を与え対等な関係としてお互いを認め合っていました。
敦賀はそんな親友の智彦から「彼女を紹介したい」と切り出されます。
親友の初めての幸福を祝うべく店で待っていた敦賀の前に現れたのは、あの列車で見かけて恋をしていた彼女、津野麻由子でした。
敦賀は表面上は祝福しながらも、憧れていた女性が目の前に親友の彼女として現れたことに嫉妬します。
場面が変わって_
ある日、目を覚ました敦賀を待っていたのは違和感でした。
朝起きたら好きな麻由子と一緒に暮らす幸せな世界、それが敦賀の迎えた朝でした。
しかし、その世界では親友の智彦が忽然と姿を消していまっています。
親友と彼女が付き合っている嫉妬の世界、彼女と一緒にいながらも親友のいない世界、どちらが本当の世界なのか、自分と親友と彼女に何があったのか、敦賀は謎に迫っていきます_
感想
この作品は三角関係である「恋愛」要素と脳と記憶に関する「SF」要素がいいバランスで扱われているように思います。
SFサスペンスに重点を置いて理論や構成がより詳細に描写されている作品や、恋愛に重点を置いて感情表現をより詳細に描写している作品もあるでしょうが、この作品ではこのバランスがちょうど良い感じにまとまっていると感じます。
主人公の記憶が曖昧な状態から真実を追究していく作品の場合、記憶混濁の原因が宗教的な洗脳であったり、異国の謎の物質のせいであったりといった作品もあり、そういった類のものは苦手なのですが、この作品はそうではなく、(例えとんでも理論だったとしても)やはり科学的な理由があるほうが私はすっきりするようです。
ただ、この作品についてどうこうというわけではなく、こういった類の作品では、いくら当事者の記憶がどうにかできたとしても、周りの人物、社会との整合性をとることをどうするかが常に課題として残ると思います。
恋愛の面では判官贔屓な視点で親友である三輪智彦に肩入れしたくなってしまうため、主人公である敦賀に対する見方・印象が相対的に悪くなってしまいます。
また、合わせてヒロインの立場となる津野麻由子の印象もあまりよくありません。
しかし、そういったキャラクターであるからこそ、それぞれの登場人物の行動原理が一般的・客観的な視点で共感しやすくなり、ストーリーが引き立っているのかなとも思います。
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