羊と鋼の森(ひつじとはがねのもり)
著者名: 宮下奈都(みやした なつ)
出版社: 文藝春秋(文春文庫)
発売日: 2015/09
ジャンル:音楽、ヒューマン
「羊と鋼の森」は、北海道の山奥の集落出身の青年が調律師を目指し、就職した楽器店での様々な経験を通して成長していく物語です。
著者の宮下奈都さんは福井県出身の作家であり、本作品は2016年の第13回本屋大賞で大賞に選ばれています。
また、本作品は2018年の6月に山﨑賢人さん主演、映画「orange オレンジ」で監督を務めた橋本光二郎さんを監督として映画の公開が予定されています。
あらすじ
進学のために北海道の山奥から下宿生活を送っていた高校二年生の外村は、中間試験中に教室にたまたま残っていたために、先生から来客を案内するように頼まれます。
その来客はピアノの調律師であり、板鳥と名乗りました。
板鳥が体育館に置いてあったピアノの調律をする様子を見て、また、調律したピアノの音色に魅せられて、その日から外村も調律の世界を目指すことを決意します。
東京の専門学校で経験を積んだ後、北海道に戻り新米調律師として働くようになった外村は、様々な先輩やお客さんとのやり取りを通して、調律という羊と鋼の森の中で成長していくこととなります。
感想
北海道を舞台にした小説であれば佐々木丸美さんの「雪の断章」が雪のきれいな情景を扱った小説として印象に残っているのですが、こちらは北海道の静謐な自然、厳しいくも美しい寒さの表現をきれいな文章で描いているように感じました。
また、ピアノといえば恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」や中山可穂さんの「ケッヘル」のように、音楽を題材としていると、芸術性が高い、いわば奇人といえるような人が活躍の中心となったりするのですが、本作品では主人公の外村を始めとして、どこか独特の感性を持っていると思う一方で、読んでいて共感しやすい部分も多いキャラクターが中心となっていることが魅力だと思います。
そして、この作品は静寂な森の中でゆったりと内容を楽しむような本だと感じました。話の内容として起承転結にそこまで大きな波があるわけではありません。
しかし、それでも読んでいておもしろいのは、扱った題材と文章や言葉の美しさが心地よく、読者も広さがわからない目的地が見えない森の中を、主人公と一緒に少しずつ楽しみながら進んでいく感覚が味わえるからだと思います。
映画も楽しみに思える作品です。
羊のハンマーが鋼の弦を叩く。
それが音楽になる。
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