小説 ~ 雪の断章 ~




雪の断章(ゆきのだんしょう)
著者名: 佐々木丸美(ささき まるみ)
出版社: 東京創元社
発売日: 2008/12(※1975年発表作品)
ジャンル:青春、ヒューマン





「雪の断章」は佐々木丸美さん著作、北海道を舞台に孤児から引き取られた先の家で陰湿な扱いを受けていた小学生の少女が、一人の青年と出会い、生活を共にしていくなかで、周囲の人々に影響を受けながら成長していく物語です。

本作品は佐々木丸美さんのデビュー作品であり、孤児四部作シリーズの一作品でもあります。

館シリーズといえば新本格ミステリー作家と称される綾辻行人さんのシリーズが有名ですが、佐々木丸美さんの作品にも館シリーズ三部作があったりします。

また、こちらの作品では著者が深く感銘を受けたということで、サムイル・マルシャークさん著作の童話「森は生きている」を何度か引用する場面があります。

1985年に「雪の断章 -情熱-」として、斉藤由貴さんの初主演映画として映像化もされています。



あらすじ


舞台は北海道、生後二ヶ月のときから孤児院で育った倉折飛鳥(くらおり あすか)は、日々の仕事を平凡にこなしながらも、それなりに元気で過ごしていたのですが、六歳のときに本岡家にお手伝いとして引き取られることになりました。

傲慢な夫婦と陰湿な二人の娘、大学生の聖子(せいこ)に飛鳥と同じ齢の奈津子(なつこ)、そして先輩家政婦の幸枝、飛鳥はそこで自由を奪われ、嫌がらせを受けることになります。

約二年間、そのような生活に耐えていた飛鳥でしたが、遂に我慢できなくなっていまい、奈津子に反抗した結果、家を追い出されて帰るところがなくなってしまいます。

そうして困り果てていた飛鳥に手を差し伸べた一人の青年がいました。

その青年、滝杷祐也(たきざわ ゆうや)との出会いは初めてではなく、三度目でした。

初めて会ったのは孤児院時代に公園で迷子になったとき、二度目は本岡家に引き取られて約一年後の本岡家の仕打ちにくじけそうになっていたとき、そして今回の出会いです。

飛鳥はもはや本岡家が帰る場所でないことを運命的な再会を果たした祐也に訴え、祐也も当初は一時的に仮宿としての役割を果たしていただけでしたが、何か思うことがあったのか、最終的に飛鳥を引き取り共に生活することを選択します。

そうして飛鳥は、滝杷祐也と、そして彼の親友である近端史郎(おうはた しろう)、家政婦やアパートの管理人、住人に囲まれながら暮らしていくことになります。

飛鳥の頑くなだった心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化していくのですが、本岡家との因縁は飛鳥に平穏な生活を送ることを許さず、後の重大な事件の引き金となっていきます_




感想


創元推理文庫として発行されている本作品ですが、ミステリーがメインでなく、主人公である飛鳥のビルドゥングスロマン小説であり、シンデレラ小説であり、飛鳥と祐也の成長と葛藤の物語です。

20代の独身男性が小学生の女子を引き取るといった部分等、現代においては少し現実的でない場面も多少ありますが、北海道や童話を舞台とした雪のきれいな情景描写や、飛鳥の視点を中心とした詳細な心情描写は時代を忘れさせ読むことに集中させてくれます。

飛鳥の視点で話が構成され、飛鳥が幼少のときからの物語となっているため、少し頑固で子供っぽいところがある飛鳥に感情移入ができない場合は本作品を読むのがつらくなるかもしれません。

祐也はもちろんいい男なのですが、親友の史郎もかなりいいキャラクターであり、飛鳥に味方してくれる場面はとても微笑ましいです。


だからこそ終盤の展開は切なさが増していきます。
史郎の決断も、祐也がずっと悩んでいたことも、とても切実に響いてきました。

時代に関係なく読めてよかったと思える小説でした。



冬の青空なんてナンセンスだ。
やわらかい灰色で私を抱き、こな雪で髪を飾ってくれるのが私の冬だ。





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