小説 ~ ケッヘル ~




ケッヘル
著者名: 中山可穂(なかやま かほ)
出版社: 文藝春秋
発売日: 2006/06
ジャンル:サスペンス、恋愛、ヒューマン、音楽





「ケッヘル」は 中山可穂さん著作、執着と情事の逃避行生活に終止符を打つことにした一人の女性と、熱狂的なモーツァルティアンである謎の男の数奇な運命と、とある復讐劇の模様を描いた作品です。

中山可穂さんは愛知県出身の作家であり、「白い薔薇の淵まで」が2001年に第14回山本周五郎賞を受賞しています。

中山可穂さんは女性同士の恋愛を取り扱った作品が多いようであり、本作品でもその場面がありますが、それに限らず、男女間の愛や親子愛についての場面もあります。



あらすじ


ドーバー海峡に面したフランスの港町で、木村伽椰(きむら かや)は海に向かって一心不乱に指揮棒を振り続ける男に目を留めます。

男の名前は遠松鍵人(とおまつ けんと)、とある旅行代理店の代表取締役を務めており、また、部屋番号や飛行機の便にモーツァルトの作品目録で有名な“ケッヘル番号”を関連付け、それを基準に行動するという熱狂的なモーツァルティアンでした。

情熱と執着に捉われた逃避行生活を続けていた伽椰、彼女はその邂逅を通して、遠松が代表を務める旅行代理店で、モーツァルティアンのための特殊なツアーの添乗員として務めることになります。

しかし、それは、激動の人生を過ごしてきた二人の数奇な運命にふさわしい復習劇の幕開けに過ぎませんでした_



感想


突拍子もない奇妙な出会い、主人公や周囲の人たちの尋常ではない嫉妬深く情熱的な激情、驚愕の幼少期から青年期の生活、小説の世界といえ一見して不自然な状況の連続にもかかわらず苦もなく読み続けられたのは、この作品の構成と登場人物の感情や考え方が丁寧に描写されているためだと思います。

伽椰と遠松の二つの一人称視点があり、こういったパートわけがある作品は、どちからのパートが不要、冗長、読み飛ばしたくなるものもあるのですが、この作品はそんなこともなく、両方のパートを存分に楽しむことができました。

登場人物の感情面についても、恋愛に関しては、思春期の男女、夫婦、女性同士、親子、友といった関係、情熱的な情事からプラトニックな関係と様々あり、恋愛以外でも、友情や嫌な宿敵の存在、周囲のサポートしてくれる人々に関しても丁寧に描かれています(男の情けないプライドが引き立て役にしかなっていないのが少し悲しいですが)。

そして、そういった人間の感情部分を丁寧に記載しているからこそ、サスペンスとしての動機付け、ホワイダニットが輝き、小説全体のストーリーに夢中になれると思います。


ただ、主人公である伽椰について、小説全体を通しての一連の行動に嫌悪感を覚える人も少なからずいると思います(伽椰がどこか魅力的過ぎという設定も考えものです)。その点は少し気になりました。

それでもこれほどの大作をノンストップサスペンスとして壮大にまとめている点はすごいと思います。私はモーツアルトに詳しくありませんが、詳しければもっと楽しく読めたのかもしれません。






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