漫画 ~ いぬやしき ~




いぬやしき
作者:奥浩哉(おく ひろや)
出版社: 講談社
掲載誌:イブニング
巻数:全10巻(2014/05/23 ~ 2017/09/22)




「いぬやしき」は機械人間となって巨大な力を手に入れた58歳のヒーローと高校生の悪役との善と悪、世間の称賛と悪評、それぞれの苦悩や人間関係に焦点をあてたSF漫画です。

著者は、SF・デスゲーム漫画「GANTZ」を代表作に「め〜てるの気持ち」や「HEN」で有名な奥浩哉さんです。

フジテレビ「ノイタミナ(noitaminA)」枠で2017年の秋クールでテレビアニメ化されています。

そして2018年に木梨憲武さんと佐藤健さんのダブル主演での映画化も発表されています。



あらすじ


本作の主人公、犬屋敷壱郎(いぬやしき いちろう)は58歳で妻と高校生の娘と中学生の息子がいます。

娘の友達から「おじいちゃん?」と言われてしまうような外見と、体も小さく内向的な性格をしているため、家族からも冷たい態度をとられてしまい、人生に対して強い孤独感と虚無感を感じていました。

さらに、体の調子が悪かったために病院で検査したところ、ガンで余命3ヶ月と宣告されてしまいます。

ガンで余命幾ばくかということすら最愛の家族に告白することができず、人生に絶望した主人公は犬の散歩をしながら公園でたそがれていました。

すると偶然宇宙船のようなものが通りかかって、偶然うっかり主人公ともう一人近くにいた高校生の少年を攻撃?して破壊してしまいます。

あせった宇宙人たちは“兵器ユニット”という謎の技術を利用して主人公を復活させてしまいます。

目が覚めた主人公は日々の生活に戻ったのですが、視力が回復し、腰痛がなくなり、ガンも回復して、レントゲンには何も写らず、腕から湯気が発生し、終いには体が機械になっているということに気づきます。
(ここで病院がいったい検査で何していたのかと突っ込みたくなるのですが)

機械になったことで絶望しているのに涙も流れず、本物の自分は死んでしまったと思う主人公でしたが、もともとあった正義感と、その格段に発達した聴力の影響で、未成年に集団でリンチを受けているホームレスの助けを求める声に反応し、機械の能力を活かして未成年集団に制裁を課し、ホームレースを救済します。

ホームレースから感謝されたことで、自分が心があること、自分の生きる意味があることを見出し、その超人的な能力を活かして人助けに勤しむこととなります。


一方、犬屋敷が偶然宇宙人と居合わせた現場には、他にもう一人、高校生の獅子神皓(ししがみ ひろ)がいました。

彼も犬屋敷と同様に機械人間、サイボーグとして常人をはるかに凌駕する能力を持つことになるもう一人の主人公であり、犬屋敷と対比されるライバル的存在です。


犬屋敷が人助けに生きがいを見出す一方で、獅子神は他人の生死について何とも思わない人間であり、何となくといった感情で街中の道路で事故を発生させたり、本当に自分が他人に興味を持てないのかを確認するためという自分勝手な理由で赤の他人の家族を無残に殺害したりします。

人助けをすることに生きがいを感じ正義のヒーローのように人の命を救う者と、他人の命に価値を見出せない遊び半分で人の命を奪う者とが、周囲や社会を巻き込んでいきます。



感想


主人公が周囲の人間からまったく期待されていない日々を過ごしていたが、あるとき突然に強力な力を手に入れたことで生きがいを見出すという点では、「GANTZ」の主人公である玄野計と同じです。

連載開始当初の玄野計と違い正義感があること、妻子がいること、そして何より"若さ”がないことが異なる点として挙げられます。

体が機械になっているために、腰痛や老眼といった健康に関する不安がない意味では高齢者という特徴を失っているのですが、見た目や考え方が老成している点で珍しい主人公です。
(2017年の冬ドラとしてドラマ化された、「中年スーパーマン左江内氏」(堤真一さんが主演したドラマのタイトルは「スーパーサラリーマン左江内氏」)も若者ではない正義のヒーローでしたが……)

そして、主人公には絶対的な力と正義感があります。

しかし、この作品の特徴的な一つとして、勧善懲悪の形式をとっているのですが、悪意のあり方が不気味であるということが挙げられます。

ホームレスをいじめる学生であったり圧倒的な暴力で相手を制圧するヤクザといった小物から生粋の悪人といえるような様々なキャラクターがいるのですが、いずれも悪事を働いているという意識が希薄であり、罪悪感というのもが見られないあたり、恐怖を引き立てています。

そんな中でもう一人の主人公的存在である獅子神の存在はやはり気を惹きます。

彼もどこかネジが飛んでしまっている印象はありますが、しかし、彼は身近な存在である周囲の人間に対しては人並みかそれ以上に優しいのです。
(だからこそ、無慈悲に弱者を虐げる場面がより一層悪い印象を与えるのですが)

そして、物語が進行する中で彼が周囲の人を巻き込み、そしてその人たちとどう接して変わっていくのかは犬屋敷以上に興味深かったです。

本作のように、おっさんが主人公で正義の味方のものもおもしろいのですが、家族からも社会からも見放された還暦間近のおっさんがダークヒーローとして活躍したり、犬屋敷と獅子神の善悪の立ち位置が逆なストーリーでもおもしろくなったと思います。




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