小説 ~ 嘆きの美女~




嘆きの美女(なげきのびじょ)
著者名: 柚木麻子(ゆずき あさこ)
出版社: 朝日新聞出版
発売日: 2011/12
ジャンル:ヒューマン




「嘆きの美女」は 柚木麻子さん著作、半引きこもりで外見も内面も「ブス」と言われている女性が、ひょんなことから「美女」と呼ばれる人たちと共同生活を送ることとなり、そこでの生活をきっかけに価値観や自身を変えていく成長小説です。

著者の柚木麻子さんは東京都出身の作家さんで、「BUTTER」や「伊藤くん A to E」の作品で直木賞候補となっています。

本作品は2013年の冬に、NHK BSプレミアムのドラマとして、森三中の黒沢かずこさん主演で映像化もされています。



あらすじ


池田耶居子(いけだやいこ)は大学卒業後に就職した会社をすぐに離職し、その後のアルバイトも長続きせずに実家に居候しているニートです。

チョコやスナック菓子を日々大量に摂取するせいか、顔には吹き出物もたくさんでき、体重計も避けていて、たまの外出時には周囲から嘲笑されることもあります。

また、家では漫画と菓子を貪りながら、ネットで他人を中傷することを楽しみにしており、外見も内面も不細工な状態です。

そんな耶居子が1番楽しみにしていることが、美人専用悩み相談サイト「嘆きの美女」を荒らすことでした。

そして、ネット上で荒らすことに物足りなさを感じていた耶居子は、「嘆きの美女」が月1で開催しているオフ会が近所で開催されることを突き止め、本当に美女の集団なのかどうかを確かめにいくことにします。

ところが、そこで生じたある出来事をきっかけに耶居子は一時的に体を自由に動かせなくなる程の怪我を負ってしまうと同時に、「嘆きの美女」の美女たちが暮らしている場所で同居することになってしまいます。


自分と相容れぬ存在である美女たちとの暮らしに辟易する耶居子でしたが、一方で、生きてきた環境があまりにも違う彼女たちと暮らすこと、また彼女たちが抱える悩みに触れることによって耶居子は変わっていき、そして、周囲の美女たちも耶居子と関わることで少し変化が生じていきます。



感想


スラスラと読むことができ、読後感も爽快な話でした。

主人公の耶居子の性格はひねくれている、周囲の美女も実は腹黒い部分がある、嫌な性格の男たちもいる、そんな登場人物がたくさんいても読みやすいのは、柚木麻子さんの描く人物像がリアルで辛辣に描くことで、共感しやすくなっているためだと思います。

耶居子の美女たちへの痛烈な批判や、美女たちの面倒くさいこだわりに対して軽く笑ってしまう場面がたくさんあります。

また、身近な固有名詞の菓子名が出てきたり、飯テロのような料理描写があり、それらもこの作品を引き立てていると思います。

もちろん、こういった軽快さがある反面、ストーリーがテンポよく順風に進みすぎている面もありますが、登場人物それぞれが芯はぶれずに、価値観を変えながら成長していく様子が気持ちいい作品となっていると思います。


「でも、安全な場所で好きなものだけ見つめて生きていくのって、なんか違う気がする。
思い切って、苦手な領域に飛び込むことで見えてくるものもあんのかなって、最近思うようになった。
少なくとも恨みやわだかまりからは解放される気がするんだよね」




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