記憶屋(きおくや)
著者名: 織守きょうや(おりがみ きょうや)
出版社: KADOKAWA(角川ホラー文庫)
発売日: 2015/10
ジャンル:ホラー、サスペンス、恋愛
「記憶屋」は 織守きょうやさん著作、大学生である主人公の周囲の人物が不自然に記憶を無くしたことにより、都市伝説の怪人「記憶屋」の正体と目的を追い続けるホラー小説です。
(とは言っても、青春恋愛小説に近い内容ではあります)
本作品は、「第22回日本ホラー小説大賞」で「読者賞」を受賞されています。
(応募は「京谷(きょうや)」名義)
あらすじ
小学校に入学する前、主人公である遼一(りょういち)は「記憶屋」という都市伝説が近所の高齢者の間で有名になっていることを初めて知ります。
夕暮れ時に、公園の緑色のベンチに座っていると記憶屋が現われ、忘れたい記憶を消してくれると……
当時はそんな都市伝説を信じていない遼一でしたが、大学生になって、記憶を消されたと思われる三人の人物の存在を確認し、本当に記憶が消されたのか、なぜ消されたのか、真相を調べ始めることになります。
記憶を消された一人目は遼一の3歳年下の幼馴染である河合真希(かわい まき)です。
小さい頃、トラウマになりそうな出来事を目の当たりにしたにも関わらず、翌日には完全にそのことを忘れてしまっているようであり、遼一だけがそのことを覚えています。
二人目は大学の1年先輩にあたる澤田京子(さわだ きょうこ)です。
大学で初めて参加した飲み会をきっかけとして、遼一はほのかな想いを寄せていました。
彼女には重度の夜道恐怖症というトラウマがあり、遼一は彼女と一緒にそれを克服しようとしたのですが、遼一の想いとは反対に、彼女はあり得もしない「記憶屋」という都市伝説に救いを求めていきます。
そしてある時、あれほど重症だったトラウマを克服し、更には遼一のことをきれいさっぱり忘れ去っていた京子と遼一は出会います。
そして、三人目は遼一自身です。
ある日、携帯に見知らぬ電話番号から遼一がまったく心当たりがないことにお礼がしたいと電話がかかってき、遼一は恐怖を覚えます。
遼一は気づきます。「記憶屋」は決して都市伝説などではないと、「記憶屋」は実在すると。
そして、考えます。自分たちの知らないところで、決して奪ってはいけない大切な記憶を失わせることが果たして正しいことなのか、と___
感想
他人が自分のことを忘れている、自分がしたことを忘れている、記憶に関する恐怖を、口裂け女や人面犬といった都市伝説の一つとしてうまく取り扱っている作品です。
この設定であればより一層怖い話にすることもできたと思われますが、この作品ではホラー要素よりも、恋愛要素により重点を置いているように思え、切ない話となっています。
主人公である遼一を中心に、記憶屋に関わった人たちの4つの話で構成されていますが、すべての登場人物がそれぞれに他人のことを尊重している「2nd.Episode:ラスト・レター」が私は1番好きでした。
こうなると残念だったのが4つのエピソードをそれぞれ独立した話としたほうがよかったのではとも考えてしまいます。
2つめがよかった分、最後の4つめの盛り上がりが不十分に感じてしまい、その結果、細かいことが気になったままとなってしまっています。
写真や日記といったものをどうしているのか、といった疑問はただ野暮なだけかもしれませんが、1番しっくりきていないのは、一部の記憶を消せば対処できそうな事柄でも、その人の存在まで消えてしまっているのはどうなのか、の部分です。
全体を通して読むと部分部分で消せることもできそうなのですが……
続編があるようなので、それを読むとスッキリできるのでしょうか。
日本のドラマ「世紀末の詩」で、「愛する人が先に逝去したとき、後を追うことも、生き続けることも、愛とは呼ばない」という話がありましたが、記憶屋の話を借りれば相手の死を認知しないということも一つの考え方なのかもしれませんね。
細かいことを気にしなければちょっとノスタルジック系で、記憶というものについて考えることができる素敵な作品です。
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