ブレイクスルー・トライアル
著者名: 伊園旬(いぞの じゅん)
出版社: 宝島社
発売日: 2007/1
ジャンル:サスペンス、アクション
「ブレイクスルー・トライアル」は 伊園旬さん著作で、最新のセキュリティシステムを備える建物への侵入・脱出を競う大会の様子を描いたスパイ系サスペンスアクション小説です。
著者の伊園旬さんは京都舞鶴市出身の作家さんです。
元々国内のメーカーに務めていたSE(システムエンジニア)ということで、生態認証やロボットを利用したセキュリティが作品に登場します。
本作品は、第5回の『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しています。
(ただ、登場人物の隠れた思惑といったものはあるのですが、ミステリと言えるほど謎に焦点をあてた小説ではないような気がします……)
あらすじ
主人公の門脇雄介(かどわき ゆうすけ)はセキュリティ会社の社員であり、大学生の頃、暇な時間があれば、建造物や私有地への侵入や脱出、逃走に関して分析、検討しノートに書き留めるようなことをしていました。
あるとき、大学生時代の親友である丹羽史朗(にわ しろう)が門脇の元を訪れ、門脇が勤務している会社が主催する最新鋭の情報セキュリティを備えたIT研究所に侵入し、ミッションをクリアすれば1億円の賞金が手に入るイベント"ブレイクスルー・トライアル”に一緒に参加してくれないかと打診を受けます。
門脇は丹羽が賞金以外に何か目的があるようであり、それを自分に隠していることを若干気になってはいますが、自身も同様に賞金以外のある目的があるため、丹羽と協力して大会に参加することにします。
事前にできる準備を万全に備え大会が開催される北海道に向かいますが、そのイベントでは最新のセキュリティシステム以外にも、他チームの参加者や研究所の管理人とその関係者も主人公の前に立ちふさがってきます。
そして、門脇の思惑と丹羽の隠していた思惑が絡んでいくこととなります__
感想
「段取り八分」という仕事を進める上で、事前の準備がいかに重要かを表した言葉がありますが、この話も大会開始前までにキャラクターの掘り下げとあわせて準備に結構な割合をさいています。
その甲斐もあってか、大会中にセキュリティシステムに対して、運や偶然に依存して解決する場面がなく、比較的余裕をもって目の前の課題を解決していく形となっており、ご都合主義になっていない点はよかったと思います。
また、突破したり回避する必要のあるセキュリティも思っていたほど多くありませんでしたが、これはそもそもセキュリティシステムを複数用意することは費用の面からも、それぞれのセキュリティシステムが干渉する可能性がある面からも現実的ではないと考えることができます。
(極論を言えば24時間体制で大量の人員を用意したり、持ち出せない破壊できないそしていじわるな方法でしか開けられない金庫を用意することだってできるわけですから)
結局、何が言いたいのかというと、この小説のブレイクスルートライアルは想像以上に丁寧に現実的に作られているような気がして、そこで逆に損をしているように思いました。
ミステリにおいて推理して、解決編ですべての謎がすっきりと明らかになったときのカタルシスを味わいたいという気持ちがあります。
また、難攻不落のセキュリティに対して、何とかしてギリギリのところで解決する場面をドキドキして期待したりします。
ただ、前述のようにこの作品では、偶然にはあまり頼りませんし、ブレイクスルートライアルというイベントそのものには大きな謎がなかったりします。
実は建物に大きな仕掛けがある、大会に告知されているものとは別の隠された目的がある、お互いにライバルで足を引っ張り合っていたチーム同士が、どうしても解けないセキュリティを突破するためにそのときだけお互い協力する、といった小説だけに限らず、映画や漫画、ゲームの世界であればあってもよさそうなものがこの小説ではなかったりします。
と言うことで、この小説は栄えある『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しており、その結果たくさんの人の目に触れることになったとは思うのですが、内容を見ると『このミステリーがすごい!』として選ばれていることが悪い方向に働いているように思います。
『このミス』だからといって大きなドキドキやカタルシスを求めていると肩透かしをくらう可能性があるため、注意が必要です。
謎にこだわるより、冒険小説的なエンターテイメントとして読めれば楽しめると思います。
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