数学的にありえない(すうがくてきにありえない)
原題:IMPROBABLE
著者名:アダム・ファウアー(Adam Fawer)
訳者:矢口誠(やぐち まこと)
出版社:文藝春秋
発売日:2009/8 (原題発表 2005/2)
ジャンル:SF、サスペンス
「数学的にありえない」はアダム・ファウアーさん著書、優れた計算能力と精神疾患を持っていた一人の男性が、特別な能力に覚醒したことにより政府機関に狙われたことになるSFサスペンス小説です。
本作品が著者のデビュー作であり、第1回世界スリラー作家クラブ新人賞を受賞されています。
訳者の矢口誠さんは本作品の他に、角川文庫の「猿の惑星」の翻訳等、数多くの作品を担当されています。
あらすじ
ニューヨークのイーストヴィレッジにある狭くて窓のない地下室、集まっているのはギャンブラー、違法なポーカー(テキサス・ホールデム)がゲームされている中、ひどい異臭に悩まされている一人の男がいます。
男の名前はデイヴィッド・ケイン、彼は優れた計算能力をもっており、複雑な演算を求められる事象の確率や期待値も瞬時に計算することができます。いわゆるカウンティングの能力をカードゲームに活かしています。
現在のゲームのフロップの3枚のカードはクラブのAとスペードのジャックと6、ケインの手札はハートのAとダイヤのAです。ケインは想定し得るシナリオの確率を即座に計算します。スペードのフラッシュであれば2.1%、ストレートは3.6%、ケインは次に配れる札の理想の形を計算します。フォーカードかフルハウスとなる可能性は28%、決して悪くない数字です。
そして、ターンと呼ばれる4枚目のカードがディーラーから配られます。ケインは歓喜に包まれました。テーブルの上に並べられたのはスペードのAだったからです。
フォーカードに勝てるのはストレート・フラッシュしかありません。そして、フロップとターンの4枚のカードを考慮すると、場にあるスペードのAとジャックを含めたストレートフラッシュを作るためには、スペードのキングとクイーンと10がピンポイントで必要です。
普通に考えて、まったく心配する必要のない確率、しかし、ケインは計算します。最初に配られるカードが必要な2枚である確率は442分の1、さらに必要な1枚がリバーと呼ばれる5枚目のカードに配られる確率は19,448分の1、そして、1つのゲームでフォーカードとストレート・フラッシュが同時に起こる確率は__
午前2時15分、ナヴァ・ヴァナーは煙草に火をつけ、それを燻らせます。彼女の本能が尾行者がいると警告しています。彼女は煙草を銜えたまま、街をうろつき、尾行者を突き止めようとします。
ナヴァは黒人のホームレスに違和感を抱きます。その違和感の原因に気づきます。それは、臭いでした。ホームレスのその身なりに反して、まったく彼から臭いがしなかったことで、ナヴァはその尾男の正体を見抜きました。
尾行者が一人とは限らない、ナヴァは続いて、ホームレスが入れないようなクラブへ向かいます。主導権を握ったナヴァはすぐにもう一人の尾行者が赤毛の女であることを見抜きます。
そして、ナヴァはそのまま地下鉄の駅に向かい、尾行者の男を不意打ちし、拳銃を突きつけ尋問します。男の正体はCIAの職員であり、目的は定例の監視でした。ナヴァも男と同じCIAの職員です。
監視者と互いに解放し合い、また夜の道を移動するナヴァ、今度こそ追跡者がいないことを確信し、目的の場所へと移動します。
ナヴァが辿り着いたのは薄汚いビルでした。そこの一室で彼女を待って座っていたのは東洋人でした。男はナヴァに対して、イ・テウと名乗っています。彼は北朝鮮の傍聴部門の工作員で、諜報活動のエキスパートだとナヴァは警戒しています。
ナヴァは産業スパイとしてイ・テウとの取引を卒なく完了させるだけでした、しかし、ナヴァが提供したディスクには擦り傷がありました。重大な取引に於けるミス、イ・テウは彼女に極僅かな猶予を与えますが、ナヴァは自身の余命が僅かであることを懸念することになります__
感想
優れた計算能力に精神疾患が影響して、自覚のない特殊な能力に目覚めた男を巡るSFサスペンスアクション作品です。
主人公のケインの能力を一言で表すと「全知を利用した予知能力」です。どうしてそんなことが可能かという理論に関しては、「集合的無意識」と「ラプラスの魔」が用いられています。
コイントスしたときに表と裏が出る確率は単純に考えると1/2です。しかし、トスするときに加える力や重力といったあらゆる要素を計算することで、表か裏か100%判断できる、または自身が100%表も出すことが可能です。これが、「ラプラスの魔」をベースにした本作品の考え方です。
ただ、実際にそういったすべての事象を知り、計算することは不可能です。しかし、広大な宇宙にそれが可能なスーパーコンピューターのようなものがあり、ケインはそこにアクセスすることができます。これが、「集合的無意識」をベースにしたケインの特殊能力です。
過去に遡るタイムリープの形で未来(現在)を変える話は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「バタフライ・エフェクト」、「時をかける少女」、「STEINS;GATE」、「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」など、たくさんあります。
この話は現在から無数にある可能性の中から一つを選択する点はタイムリープとは異なるかなと思います。「ひぐらしのなく頃に」や「うみねこのなく頃に」のあらゆる可能性がある中で、神様視点として欠片を一つ選ぶ感じが近いです。
登場人物の思惑、それが交錯していく様子、怒涛の展開、とSFだけでなく、アクションやサスペンスとしても魅力的な作品でもあります。
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