映画 ~ 十二人の怒れる男 ~





十二人の怒れる男(じゅうににんのいかれるおとこ)
原題:12 Angry Men
配給:ユナイテッド・アーティスツ
監督:シドニー・ルメット(Sidney Lumet)
脚本:レジナルド・ローズ(Reginald Rose)
出演:ヘンリー・フォンダ(Henry Fonda)、マーティン・バルサム(Martin Balsam)
公開日: 1957/04/13(日本 1959/08/04)
ジャンル:法廷、サスペンス




「十二人の怒れる男」はアメリカ合衆国の陪審制度を題材とした、陪審員室で起こる議論というワンシチュエーションの法廷物映画です。

監督は「狼たちの午後」、「プリンス・オブ・シティ」等のシドニー・ルメットさん、本作品で1958年にアカデミー賞の監督賞にノミネートされています。

脚本はプライムタイム・エミー賞を受賞したテレビドラマ版も手がけているレジナルド・ローズさんです。

作中で大きな存在感を示す陪審員役を「黄昏」等のヘンリー・フォンダさんが務めています。

本作品は1957年度にベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しています。



あらすじ


裁判所、ロビーには大勢の人がいて、一部では喧騒も聞こえます。

228番の部屋では裁判が行われています。

スラム街に住む少年に父親殺しの容疑がかかっています。

ここにいる陪審員たちは、その謀殺事件の審理を聞いてきました。その事件に関する証言や法律を聞いてきました。

後は被告人の疑いに対して、有罪か無罪か判決を下すだけです。裁判長から評決は全員一致であること、責任が重大であることが言い渡されます。

陪審員が退廷し、陪審員室に移動します。


到着後、十二人の陪審員は思い思いに過ごします。

とある陪審員は隣の陪審員にガムを勧めたり、とある陪審員は窓を開けたりしています。

陪審員室にはエアコンがありません。予報では、今日は暑い日になるということです。

陪審員が初めての人もいれば何度も経験したという人もいます。

裁判のことを話したり、トイレにいったりする人、中には担当したのが殺人事件でよかったと不謹慎なことを言う人もいます。

新聞を眺めている人、ヤンキース戦のチケットを持っていることを自慢し、早く終わらせたいという人もいます。

そして、陪審員の番号順で座るように催促する人が現れます。そうした中でも、検事のことをどう思ったか、父親を殺した少年のことをどう思ったかを隣の人と会話する人もいます。

そして、一人の年配の陪審員がトイレから戻ってきて、ようやく全員が着席します。


議長の立場となった陪審員1番(マーティン・バルサム)から、議論してから投票するか、すぐに投票するか、意見が求められます。

進行役の陪審員1番より、今回の事件が第1級殺人であること、有罪の場合は被告人はすぐに死刑台に送られることになることが改めて警告されます。

そして、有罪の人は挙手するよう陪審員1番が決を採ります。

7~8人の陪審員が即座に手をあげると、次々と手が挙がっていきます。

そんな中、陪審員8番(ヘンリー・フォンダ)だけが手を挙げません。

陪審員8番は話し合いたいと、“本気で無罪と思っているのか?”との他の陪審員からの問いかけには、“わからない”と、とにかく話し合いたいと、唯一、有罪に手を挙げなかった陪審員8番は皆に語りかけます__



感想

本作品ではオープニングとエンディング、また洗面所のシーン以外はすべて陪審員室のシーンであり、恐らく9割5分がそのシーンの、いわゆるワンシチュエーション作品です。

物語のポイントとして”伝統的に全員一致であることが必要”、”全員一致を満たさない場合は評決不能となり新たな陪審の選任から裁判をすべてやり直す”と、これらのルールがますます議論を白熱させます。

無罪に賛成した人も決して少年が絶対父親を殺していないというスタンスではなく、本当に提示された証拠を信じて一人の少年を電気椅子に座らせてもよいのか、話し合い、検証しようではないか、というスタンスに思いました。

もちろん、中にはその話し合いが無駄だと主張する人もいますし、自分の意見をもたずに周囲にあわせているような人もいますが、結果的には話し合いを重ねていく過程で、意見を変える人や感情をむき出しにする人とそれらの様子が描かれています。


この物語では、数の圧力こそあれ、決して数の暴力で評決を決定することはなく、あくまで話し合いを重ねるということを描いている点が印象的です。

たまに「民主主義」とは「数の暴力」とする意見を聞きますが、この映画は真っ向からそれとは異なるストーリーを展開しています。

また、被疑者はスラム街出身で、偏見を理由に有罪としたり、陪審員は年齢・職業こそ様々ですが女性の陪審員は一人もいなかったり、当時の社会背景も確認できます。


十二人の陪審員がそれぞれ個性的だということですが、最初に無罪を主張するヘンリー・フォンダさんの印象ばかりが残ってしまっています。

しかし、2回目に冒頭だけ鑑賞した際には、最初の挙手による多数決の場面で、1回目にはわからなかった陪審員の挙手の微妙なタイミングの違いとかがわかりおもしろかったです。

このように、何回か見ることでより魅力を感じることができそうな映画です。


この映画にとっつきにくそうな印象を抱いている方は、これを原作として、三谷幸喜さん脚本で中原俊が監督をした「12人の優しい日本人」を見てみるのもいいと思います。

また、題材こそまったく違い、エンターテインメント色がより強いですが、古沢良太さん脚本で佐藤祐市さん監督の「キサラギ」も密室での紆余曲折を取り扱っているサスペンスコメディとしてお勧めです。

同じように密室での参加者の話し合いで、ここ数年に発表されたものであれば、文庫小説ですが藤崎翔さんの「神様の裏の顔」(発表当時は「神様のもう一つの顔」)もエンタメ色の強い作品で読みやすさの面でお勧めです。







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